- PR表記が必要なのは知っているが、どこまでが広告になるのか線引きが分からない
- SNSごとにルールが違っていて、正しい表記方法が把握できていない
- インフルエンサーに依頼しているが、自社が法的責任を負うことに不安がある
2023年10月から、景品表示法に新たなルールが加わり、SNSやインフルエンサーを活用した広告に対する「ステルスマーケティング(ステマ)」の取り締まりが本格化しました。かつては曖昧だったステマの定義も、いまや法的に「違法」と明確に示されており、対応を誤ると企業名の公表や措置命令の対象となりかねません。
特にInstagram、YouTube、TikTokといったSNSでは、一般投稿と広告の境界が分かりづらく、「どこまでが広告か」「PR表記はどうすればいいか」と悩む担当者が増えています。
本記事では、こうしたステマ規制の背景をふまえたうえで、主要SNSごとの表記ルールと実務で守るべきポイントをわかりやすく整理します。自社の広告活動がステマと見なされないために、必要な知識を一緒に確認していきましょう。
ステルスマーケティング(ステマ)・・・企業や広告主が、第三者(インフルエンサーなど)を通じて広告・宣伝を行う際、消費者に広告であることを隠して情報発信する手法。2023年10月1日から景品表示法の「不当表示」として明確に規制され、違反時は措置命令や社名公表などの行政処分対象となる
PR表記・・・SNSやWebサイト等で、投稿や記事が広告・宣伝であることを明示するために付ける「PR」「広告」「提供」などの表示。消費者が一目で広告と分かるよう、冒頭や目立つ位置に表示する必要がある
ステルスマーケティングとは?

SNSやインフルエンサーを活用した広告が一般化する中で、問題視される機会が増えているのが「ステルスマーケティング(ステマ)」です。この章では、ステマの定義や違法とされる理由、景品表示法との関係性、そして企業が受けるリスクについて整理します。
ステマの定義と、通常の広告との違い
ステマとは、報酬や商品提供などの対価を受けて行う広告活動にもかかわらず、それを明示せずに発信する行為です。
たとえば企業から商品提供を受けたインフルエンサーが、あたかも自腹購入したかのようにレビューを投稿する場合、それは典型的なステマに該当します。
通常の広告では「PR」や「広告」といった明示的な表記があり、消費者がそれを広告として受け取ることができます。しかしステマは消費者に広告であることを隠すため、公正な取引を妨げるとして問題視されています。
なぜステマは違法・問題行為とされるのか(消費者保護の観点)
最大の問題は、消費者の誤認を誘うことです。
広告であることが明示されていないと、消費者は「信頼できる第三者の本音のレビュー」だと誤解し、購入や申込みの判断を誤る可能性があります。
このように、消費者が本来知っておくべき“広告である事実”を隠したまま情報を伝えることは、不適切な誘導であり、消費者保護の観点からも重大な問題とされているのです。
景品表示法との関連と2023年10月から導入された運用ルールの要点
ステマは、2023年10月から景品表示法の運用ルールが明確化され、「不当表示」の一種として正式に規制対象となりました。
これにより、以下のような条件に当てはまる行為は違法となります。
- 広告主の依頼や意図で発信されている
- 報酬や商品提供などの対価が発生している
- その事実(広告であること)が消費者に明示されていない
また、今回の改正では「広告主にも表示管理の責任がある」と明記されたため、たとえインフルエンサーが勝手にPR表記を省いた場合でも、企業側が措置命令などの処分を受けるリスクがあるのです。
ステマがもたらすリスク(信用失墜、措置命令、訴訟など)
ステマが発覚すると、企業やブランドは以下のような深刻なダメージを受ける可能性があります:
- 消費者庁からの措置命令・社名公表
- SNS上での炎上・メディア報道による信用失墜
- 場合によっては民事訴訟や損害賠償請求につながることも
特にインフルエンサー施策やアフィリエイト広告は、企業が直接発信していないため責任の所在が曖昧になりがちですが、現在は「知らなかった」では済まされない時代です。
広告主としてのリスクマネジメントが求められます。
措置命令(そちめいれい)・・・景品表示法違反が認められた場合、消費者庁が事業者に対して違反行為の中止や再発防止策、違反内容の公表などを命じる行政処分。命令に従わない場合は刑事罰の対象となる
SNS・インフルエンサー広告がステマとみなされる例

SNSを活用したインフルエンサー施策は、ユーザーとの距離感が近く、自然な訴求ができる一方で、「これは広告なのか?ステマなのか?」と判断が分かれるケースが増えています。ここでは、実際に違反とみなされやすい代表的なパターンを紹介します。
商品提供のみで金銭報酬がない場合でもNG
ステマに該当するかどうかは、「報酬が金銭かどうか」に限られません。たとえば、企業から商品を無償提供され、その対価として投稿を行った場合でも、広告と見なされます。
このようなケースでは、「金銭が発生していないからPR表記は不要」という誤解が広がっていますが、景品表示法の観点では“対価性がある=広告”です。
無償提供や割引、イベント招待などもすべて、対価を伴う広告に該当します。
自然な投稿風にして実際は広告(例:企業からの指示を受けている)
投稿文や画像の見た目は自然でも、裏で企業の指示や監修が入っている場合は、広告とみなされます。
例:
- 「使ってみたらすごく良かった!」という一見個人の感想に見えるが、企業が事前に構成や文言を指示していた
- 投稿タイミングや撮影スタイルを「この日に、この形式で」と企業側が設定していた
このように、「企業の意図・関与があるかどうか」がステマか否かの判断基準となります。
投稿者が“自発的に発信しているように見えて、実際は企業による広告”であることが問題です。
「#pr」を目立たない位置に配置、あるいは記載しない
形式的に「#pr」などの表記があっても、目立たない位置にある場合や、投稿の最後に小さく記載しているだけでは、ステマと判断されるリスクがあります。
特にInstagramやTikTokなど「もっと見る」を押さないと全文が表示されない設計のSNSでは、
- 投稿文の末尾に「#PR」を記載している
- ハッシュタグの中に埋もれていて視認できない
- ストーリーズで画面外に近い位置に小さく表示されている
このような場合は、「広告であることが明示されていない」と判断される可能性が高いため、視認性を意識した表記が不可欠です。
テンプレ化された口コミ風レビューなど
「みんな同じような表現をしている」「似たような写真と文章が並ぶ」といったパターンも、ステマとみなされる原因となります。
たとえば、
- 10人以上のインフルエンサーが同じ構成・語尾・商品写真で一斉投稿
- 「愛用しています」「毎日使ってます」など、定型文が多用されている
これは、企業側の“広告コントロール”が強すぎると見なされる場合があり、「自然な口コミを装った広告」として疑義を持たれることがあります。
信頼を得るためには、テンプレートではなく投稿者本人のリアルな感想や体験に基づいた言葉を用いることが重要です。
対価性(たいかせい)・・・広告や宣伝において、金銭だけでなく商品やサービスの無償提供、割引、イベント招待など、経済的な利益が発生している状態。景品表示法上、対価性があれば「広告」とみなされ、PR表記などの明示が義務付けられる
ファーストビュー・・・WebサイトやSNSの投稿で、画面を開いたときに最初に表示される範囲のこと。広告やPR表記は、このファーストビュー内にわかりやすく表示することが求められる
SNS別|表記ルールの実務対応ガイド
SNSごとに表示の仕様やユーザーの閲覧スタイルが異なるため、PR表記の方法もそれぞれに最適化する必要があります。ここでは主要なSNSについて、実務で守るべき表記ルールや設定方法を具体的に解説します。
Instagramの場合
Instagramはビジュアル重視のSNSであるため、テキスト情報が目立ちにくい構造になっています。そのため、特に視認性を確保する表記が求められます。
PR表記は投稿文冒頭に明記
もっとも重要なのは、「PR」や「提供」といったキーワードを投稿文の冒頭に記載することです。
本文の途中や最後に記載した場合、「もっと見る」を押さなければ表示されず、広告であると気づかれにくくなるためNGとされることがあります。
タグ「#PR」「#提供」などの使い方
- ハッシュタグの中に埋もれると視認性が下がるため、文章として「【PR】」のように表記するのが推奨されます。
- 「#PR」「#提供」「#タイアップ」などは明確な広告表記として有効ですが、複数のハッシュタグと一緒に並べず、単独で目立たせるのがポイントです。
Instagramの「ブランドコンテンツツール」活用のポイント
Instagramでは、ビジネスアカウント向けに「ブランドコンテンツツール」が提供されています。
これは投稿に「○○(企業名)とのタイアップ投稿」といったラベルを表示するもので、視覚的に広告であることを明示できる機能です。
活用方法:
- 企業と連携したクリエイターが、投稿作成時に「ブランドパートナー」を設定
- 投稿上部に「○○社とのタイアップ投稿」と表示され、誤認防止につながる
広告主側からはインサイト(分析情報)も閲覧できるため、信頼性と効果測定の両面で有用です。
YouTubeの場合
動画という性質上、YouTubeでは動画内の音声・字幕・概要欄のすべてでPR表記が必要です。視聴者がどのタイミングで広告だと認識できるかがポイントになります。
動画冒頭のナレーションや字幕でPRの明示が必要
- 動画の最初に「この動画は○○社とのタイアップです」などのナレーションや字幕を入れることが必須
- 特にインフルエンサー案件では、視聴者の混乱を避けるためにも冒頭での明示が強く推奨されます
概要欄での記載内容(提供元、アフィリエイト有無など)
- 提供企業名(例:「本動画は○○社の提供でお届けしています」)
- アフィリエイトリンクがある場合は、「※このリンクはアフィリエイト広告を含みます」と明記
- 曖昧な表現(「ご紹介」「コラボ」など)は避け、誰が、何を、どう支援しているのかを明確にします
YouTubeの「プロモーションを含む」チェック設定方法
YouTubeでは動画アップロード時に「この動画には有料プロモーションが含まれています」のチェック項目があります。
- 必ずチェックを入れ、プロモーションであることを視聴者に明示しましょう
- この設定により、再生プレイヤー上にも「プロモーションを含む」と表示され、誤認を防ぐことができます
TikTok/X(旧Twitter)などその他の主要SNS
InstagramやYouTube以外のSNSでも、明確な広告表記が求められています。ここでは、特に利用者の多いTikTokやX(旧Twitter)における注意点とルールを紹介します。
TikTok:テキストでのPR明記+音声での説明が望ましい
TikTokでは、短尺動画がメインのため、PR表記が見逃されやすい傾向があります。
- 動画テキストに「#PR」「提供:○○社」などを冒頭に表示
- できれば音声ナレーションでも「提供動画であること」を伝える
- コメント欄ではなく、動画画面内での明示が必須です
X(旧Twitter):ツイート冒頭に「#PR」「#提供」など明記。埋もれに注意
- テキストが主役のXでは、「#PR」「#提供」などの広告表記は必須
- ただし、ハッシュタグの末尾に配置すると見落とされやすいため、文頭での明記を心がけましょう
- アフィリエイトリンクを含む投稿は、「本投稿にはアフィリエイトリンクを含みます」と追記が必要です
ブランドコンテンツツール・・・Instagramが提供する公式機能で、企業と連携した投稿に「○○社とのタイアップ投稿」などのラベルを表示できる。これにより、投稿が広告であることをフォロワーに明確に伝えることができる。
概要欄・・・YouTubeやTikTokなどの動画投稿で、動画の説明や提供元、広告・アフィリエイト情報などを記載する欄。広告やPRの場合は、ここにも明示的な記載が必要。
アフィリエイトリンク・・・特定の商品やサービスを紹介し、そのリンク経由で購入や申込が発生すると報酬が得られる仕組みのリンク。広告であることを明示する必要がある。
表記の仕方で気をつけたいNG例と改善ポイント

「PR表記をしているのに、なぜかステマと指摘された」――そんな声も少なくありません。実は、表記の“有無”だけでなく、“見え方”や“位置”も重要な判断基準になります。この章では、表記ルールを守っているつもりでも違反と見なされるNG例と、それを回避するための改善策を解説します。
PR表記があるのにステマとみなされるケース
PR表記そのものがあっても、視認性や文脈によっては「広告であることが伝わらなかった」と判断される場合があります。特に以下のようなパターンでは、景品表示法上の“明示”と見なされず、ステマと判断される可能性が高いです。
- 目立たない色や小さなフォントで表示している
- 動画や投稿の終盤でひっそりと表示
- 投稿者自身がPRであることに言及せず、あたかも自発的な紹介のように見せかけている
「提供先の明示がない」「もっと見る」の中に隠れている
InstagramやTikTokなど、長文の投稿が「もっと見る」で折りたたまれる仕様のSNSでは、PR表記がその中に埋もれてしまうと、違反扱いになることがあります。
NG例:
- Instagramの投稿で、「#PR」が本文の3行目以降にある
- TikTokで画面下の小さな文字にのみ記載している
- 企業名(提供元)の記載がなく、「誰の案件か分からない」状態
改善ポイント:
- 投稿文の冒頭に「【PR】」「提供:○○社」などの明記
- 消費者が最初に視認する部分(ファーストビュー)に広告表記を置く
- 「#PR」だけでなく、文章として広告であることを明確に伝える
ハッシュタグが乱立して「#PR」が目立たない状態
多くの投稿では複数のハッシュタグが使われますが、広告表記をハッシュタグの一部としてまとめてしまうと、「見逃されやすくなる」「単なるタグの一つにしか見えない」という問題があります。
NG例:
- 「#ダイエット #美容 #pr #ビフォーアフター」などの中に埋もれる
- 一番最後に小さく「#PR」をつけているだけ
改善ポイント:
- 「【PR】この商品は○○社から提供いただきました」など、文章の冒頭に明確な表記を入れる
- ハッシュタグで記載する場合も、#PR だけを先頭に配置し、他のタグとは区別する
→視認性・誤認防止の観点からどう改善すべきか
ステマと誤解されないためには、“消費者がひと目で広告だと分かること”が大前提です。
そのためには、以下のような対策を心がけましょう:
- 投稿文の冒頭で広告であることを明示する
- 提供元(企業名)を明記する
- ハッシュタグではなく文中で表記する(例:「【PR】」)
- 画像や動画にも視覚的なPR表示を追加する(例:サムネイルに「PR」アイコンを挿入)
広告活動において「誤認させない姿勢」は、単なる法令順守にとどまらず、ユーザーとの信頼構築にもつながります。
ハッシュタグ・・・SNS投稿で「#」のあとにキーワードを付けて分類・検索しやすくするための記号。広告やPRの場合は「#PR」「#広告」などのハッシュタグを使うが、他のタグに埋もれないように注意が必要
契約・依頼時に盛り込むべきルールと文面例
SNSやインフルエンサー広告におけるステマ対策は、投稿者個人のモラルに依存するのではなく、広告主が契約の段階で明確なルールを示し、管理責任を果たすことが重要です。この章では、インフルエンサーやクリエイターとの契約時に必ず盛り込むべきルールと、実務で使える文面例を紹介します。
インフルエンサー・クリエイターへの依頼書・契約書の必須項目
SNS施策を外部に委託する場合、依頼内容・報酬・納期だけでなく、広告表示に関する取り決めを明記することが欠かせません。以下の項目は、最低限盛り込んでおくべき内容です。
- PR表記の義務化(例:「投稿文の冒頭に【PR】と記載すること」)
- 表記方法の指定(例:「提供企業名を記載」「ハッシュタグの配置場所」など)
- 事前確認フロー(投稿内容を広告主側で確認・承認するプロセス)
- 修正指示への協力義務(不適切表現やルール違反時の修正対応)
- 違反時の責任と対処(損害賠償、契約解除、投稿削除の条件)
これらを契約に盛り込むことで、「知らなかった」「自分の判断でやった」といったトラブルを未然に防げます。
表記義務/チェック体制/修正指示権限/違反時の対応ルール
契約内容を定める際には、以下のような文面で明文化しておくと実務上のトラブル回避に効果的です。
例:契約条項の文面イメージ
第○条(PR表記および広告表示)
- 本業務により作成・公開されるSNS投稿または動画等において、受託者(インフルエンサー・クリエイター)は、当該コンテンツが広告である旨(例:【PR】、提供:株式会社○○等)を、視認性の高い場所に明示するものとする。
- 表示方法については、別途提示する「広告表示ガイドライン」に従うものとする。
第○条(事前確認・修正義務)
- 受託者は、コンテンツの公開前に甲(広告主)による内容確認および承認を受けるものとする。
- 表現や表示に不適切な箇所がある場合、甲は修正を指示でき、受託者はこれに応じなければならない。
第○条(違反時の対応)
- 受託者が本契約に定める広告表示義務に違反した場合、甲は本契約を解除し、必要に応じて損害賠償を請求することができる。
- 当該違反投稿については、受託者の責任において速やかに削除または修正するものとする。
契約書テンプレート例(簡易フォーマットで提示)
以下に、上記項目を含めた簡易フォーマットを紹介します。実務では法務部と連携して詳細設計することを推奨しますが、最低限の要素を押さえた構成です。
簡易テンプレート例(抜粋)
- 契約名称:SNSプロモーション業務委託契約書
- 契約当事者:株式会社○○(広告主)/○○(受託者)
- 業務内容:SNS上での○○商品の紹介投稿
- 報酬額・支払い条件:○○円、納品完了後○日以内
- 表示義務条項:PR表記必須・提供元明示・広告ガイドライン準拠
- 事前確認フロー:投稿前に原稿提出→承認後公開
- 違反対応条項:契約解除・損害賠償・削除要請の明記
- 契約期間・秘密保持・準拠法など:別途記載
事前確認フロー・・・インフルエンサーやクリエイターが投稿を公開する前に、広告主が内容を確認・承認するための手続き。これにより、誤った表現や規制違反を未然に防ぐことができる。
損害賠償・・・契約違反や不法行為などで相手に損害を与えた場合、その損害を金銭で補填すること。インフルエンサー広告の契約では、規定違反時の損害賠償請求を明記することが多い。
準拠法・・・契約内容の解釈や紛争解決の際に、どの国や地域の法律を適用するかを定める条項。日本国内の契約であれば「日本法に準拠する」と記載されることが一般的。
ガイドライン整備と社内・代理店間の運用体制

ステマ対策を実効性のあるものにするには、契約書だけでなく、日常的な運用ルールの整備と実行体制の構築が不可欠です。社内だけでなく、PR会社や広告代理店など外部関係者との連携体制を強化することで、違反のリスクを大幅に軽減できます。
社内チェックフローの整備(誰が・いつ・どう確認するか)
PR表記などの法令対応が正しく行われているかどうかは、投稿公開前に社内でチェックする仕組みを設けることが大切です。以下のようなチェックフローが実務上の理想です。
- 広告担当者が制作物や投稿案を確認
- 法務・コンプライアンス部門がPR表記や表現をチェック
- 最終責任者が公開承認を行う
- 公開後も定期的にモニタリングし、違反やトラブルがないかを確認
小規模チームであっても、「確認者の明確化」と「承認の可視化」は最低限必要です。
PR会社・広告代理店との情報共有・責任分担の明確化
代理店や外注先と業務を進める場合、広告主側が「ガイドラインを渡して終わり」ではなく、定期的な連携と確認を取ることが重要です。
以下のポイントを事前にすり合わせておくことで、ステマリスクを抑えることができます。
- 表記ルールやクリエイティブの基準
- 投稿の事前承認フロー(誰が・どの範囲まで確認するか)
- 修正対応・違反時の対応責任
- 問題が発生した際の報告義務と是正プロセス
委託していても責任は広告主にあるため、責任の所在を明確にし、緊密な情報共有が不可欠です。
ガイドライン例(項目案付き)と啓発活動の進め方
社内や外部パートナーに対しては、簡潔で実践的なガイドラインを作成・配布し、運用の共通認識を持たせることが有効です。
ガイドラインに盛り込むべき項目例
- PR表記の具体例(SNSごとのルール・文例)
- NG表現(誇大広告・事実誤認を招く言い回し)
- 提供元・企業名の明記方法
- 事前確認の手順と承認者の明記
- 違反があった場合の修正・削除対応ルール
これに加え、定期的な勉強会・社内向けQ&Aの整備・代理店とのキックオフミーティングなどを通じて、日常業務の中で自然とルールが意識される環境づくりを進めましょう。
コンプライアンス・・・企業や組織が、法律や社内ルールを守り、社会的な責任を果たすこと。広告運用では、景品表示法などの法令順守が重要なコンプライアンス項目となる。
モニタリング・・・広告やSNS投稿などが、ルールやガイドラインに沿って運用されているかを定期的に監視・チェックすること。違反や問題が発生していないかを継続的に確認する役割。
キックオフミーティング・・・新しいプロジェクトや業務を開始する際に、関係者全員で目的・進め方・役割分担などを確認するための最初の会議。ガイドラインや運用ルールの共有の場としても活用される。
信頼を高める広告運用の考え方
広告に対するユーザーの目が厳しくなる中、単なるステマ対策を超えて「信頼される広告」を目指す動きが広がっています。この章では、ステマを回避するための表記だけでなく、それを超えた広告戦略としての“透明性”の重要性について考えていきます。
透明性を重視した情報発信の価値
SNSやインフルエンサーを活用した広告では、情報が「誰から発信されているか」がユーザーの判断材料になります。だからこそ、「これは広告です」とあえて明言することが、逆に誠実さを伝える手段となっています。
かつては「PR表記をすると信頼を失うのでは?」という懸念もありましたが、今はむしろ“きちんと明記している”ほうがユーザーの共感を得やすい時代です。
PR表記が「逆に信頼される」時代
「PR」「提供」などの表記を明確にしたうえで、発信者の個人的な感想や使い方を正直に伝える投稿は、「案件でも信頼できる」「この人のレビューなら見たい」といった好意的なリアクションにつながる傾向があります。
特に若年層やSNSリテラシーの高いユーザーほど、「PR表記をしていないほうが怪しい」と考えるケースも増えており、透明性は今や広告の“信頼性”を担保する要素になっています。
ステマ対策=ブランディングの一部と捉える視点
法令遵守の観点からステマ対策に取り組むのは当然ですが、さらに一歩進めて「ブランディングの一環」として考えることが重要です。
- あえて正直に「企業案件」であることを明かす
- 広告であることを超えて「共感」「信頼」「納得」を得る工夫をする
- 情報の受け手が「嘘がない」と感じられる環境を整える
これらはすべて、短期的な効果よりも中長期的な企業価値・ブランド信頼に直結する広告戦略です。
ステマ対策とは、単なるリスクヘッジではなく、「誠実なブランドづくりの第一歩」として捉えることが、これからの広告運用において不可欠です。
ブランディング・・・企業や商品・サービスが、消費者に対して「信頼」や「好感」「独自の価値」などを持ってもらうための戦略や活動のこと。広告の透明性や誠実な情報発信は、ブランディングの重要な要素となる。
リテラシー・・・情報を正しく理解し、活用できる力のこと。SNSリテラシーは、SNS上の情報の真偽や意図を見抜く力を指す。
よくある質問(FAQ)
ステマ規制やPR表記に関するルールは、実務の中で「どこまで必要なのか?」「何が違反になるのか?」といった疑問がつきものです。ここでは、特に多く寄せられる3つの質問にお答えします。
「商品提供だけでも広告扱いになる?」
はい、金銭報酬が発生しない場合でも広告とみなされます。
企業から無償で商品やサービスを提供され、それに対して投稿などの見返りがある場合は「対価性がある」と判断されるため、PR表記が必須です。
「#PRってどこに書けばいいの?」
基本的には投稿文や動画説明の“冒頭”に記載する必要があります。
たとえばInstagramであれば「もっと見る」の前、YouTubeであれば冒頭の字幕・音声+概要欄への明記が望ましいです。目立たない位置や文末では「明示」とは認められないことがあるので注意しましょう。
「アフィリエイトもPR表記が必要?」
はい、成果報酬型のアフィリエイトも広告に該当するため、PR表記が必要です。
たとえ自分の意志で紹介している場合でも、報酬が発生するリンクを含む場合は「#PR」や「本投稿はアフィリエイト広告を含みます」などの表記が求められます。
対価性・・・金銭だけでなく、商品やサービスの無償提供、割引、イベント招待など、経済的な利益が発生している状態。景品表示法上、対価性があれば「広告」とみなされ、PR表記などの明示が義務付けられる。
アフィリエイト広告・・・特定の商品やサービスを紹介し、そのリンク経由で購入や申込が発生すると報酬が得られる仕組みの広告。広告であることを明示する必要がある。
まとめと次に取るべきアクション
SNSを活用した広告活動が当たり前になった今、インフルエンサー施策やアフィリエイトを実施するすべての企業にとって「ステルスマーケティング対策」は避けて通れない課題です。この記事では、その基本から実務対応までを解説してきました。
記事内容の振り返り:ステマの定義・SNS別ルール・リスク
ステマとは、広告であることを明示せずに宣伝を行う行為であり、消費者の誤認を招くとして景品表示法上の「不当表示」に該当します。
金銭報酬だけでなく、商品提供や依頼指示がある場合も広告に該当し、PR表記が必要です。
Instagram、YouTube、TikTokなどのSNSごとにルールや仕様が異なるため、「どこに・何を・どう書くか」をプラットフォームごとに最適化する必要があります。
違反した場合は、措置命令・企業名公表・信頼低下・法的責任といった深刻なリスクが伴います。
今すぐできるチェック体制とPR表記ガイドライン整備
実務で今すぐ始められる取り組みは、次の3つです:
- 社内チェックフローの構築
誰が・いつ・何を確認するのかを明文化し、投稿前に内容をレビューする体制を整えましょう。 - PR表記のテンプレート・文例の共有
インフルエンサーや関係者に対して、SNSごとの表記例を事前に提示し、ルールの統一を図ります。 - ガイドラインの作成・共有
広告表示ルール・禁止表現・違反時の対応方針などをまとめたガイドラインを用意し、社内外で共有しましょう。
これにより、「知らなかった」や「見落としていた」を防ぐ運用の土台ができます。
社内外の関係者で透明性ある広告文化を根付かせよう
最後に、ステマ対策は「法令順守」だけでなく、企業の信頼とブランド価値を守る行動でもあります。
広告であることを正しく伝える姿勢は、ユーザーから「誠実な企業」として評価され、長期的なファン獲得にもつながります。
PR会社や広告代理店、インフルエンサーなど、関係するすべての人が透明性のある広告運用を意識することで、業界全体としての信頼回復にも貢献できるはずです。
ルールを守ることは信頼を築く第一歩。自社の広告活動を見直し、透明性のある広告文化を、今この瞬間から根付かせていきましょう。
ガイドライン・・・業務や運用の際に守るべき基準やルールをまとめた指針。広告やSNS運用では、PR表記や禁止表現、チェック体制などを明記したガイドラインの整備が推奨されている