「利益が確実」「簡単に稼げる」「100%安全な投資」
こうした表現を使いたくなる気持ちは理解できますが、実はこれらが思わぬトラブルを招く可能性があることをご存知でしょうか。
投資助言・仮想通貨・FX関連の広告担当者なら、一度は「この表現は大丈夫だろうか」と悩んだ経験があるはずです。
法令違反による行政処分のリスク、広告審査の厳格化、さらには信頼失墜による顧客離れまで—適切な知識がないと、広告活動そのものが会社の存続を脅かしかねません。
本記事では、投資助言・仮想通貨・FX広告に適用される主要な法規制や表現ルールを網羅的に解説します。
金融商品取引法や資金決済法といった法的枠組みから、Google・Meta・Xなど各プラットフォームの広告ポリシーまで、初心者でも理解できるよう説明します。
この記事を読めば、法令を遵守しながらも効果的な投資関連広告を出稿するためのポイントがわかり、安心して広告運用に取り組めるようになるでしょう。
なぜ「投資助言・仮想通貨・FX」広告は厳しく見られているのか
投資助言・仮想通貨・FX広告が厳しい規制下にある理由は、消費者保護の観点から説明できます。
金融商品は「目に見えない商品」であり、購入時に実物を確認できないため、広告内容と実際のサービス内容に乖離が生じやすく、誤解を招きやすい特性があります。
また、投資には本質的に「リスク」が伴います。金融商品の性質上、元本割れや損失が発生する可能性があるにもかかわらず、「必ず儲かる」といった表現は投資の実態と大きく異なります。
金融庁や消費者庁は金融サービスに関する広告表現について明確なガイドラインを設け、誤解を招く表現や過度な利益を強調する広告に対して監視を行っています。
「お金」という重要な資産に関わるサービスである以上、消費者の誤解を防ぎ、適切な判断を促すための規制は必要不可欠です。広告運用者は規制の本質を理解し、コンプライアンスを遵守しながら効果的な広告を作成することが求められています。
仮想通貨・FX広告に適用される主要な法律・ガイドライン一覧
投資助言・仮想通貨・FX広告を出稿する際には、複数の法律やガイドラインを遵守する必要があります。ここでは、広告担当者が押さえておくべき主要な法規制とガイドラインを解説します。これらを理解することで、コンプライアンス違反のリスクを回避し、適切な広告運用が可能になります。
金商法(投資助言・FX)の規制ポイント
金融商品取引法(金商法)は、投資家保護と金融商品取引の公正性確保を目的とした法律です。特に投資助言やFX取引の広告に関しては、以下5つの規制ポイントが重要です。
①虚偽表示の禁止
金融商品取引契約の締結または勧誘に関して、顧客に対して虚偽の情報を伝えることは禁止されています。
②断定的判断の提供禁止
「必ず儲かる」「円高(円安)になります」など、不確実な事項について断定的判断を提供する行為は禁止されています。
③誤解を生じさせるような表示の禁止
重要な事項について顧客に誤解を生じさせるような表示も禁止されています。
④リスク情報の明示
金融商品のリスクに関する情報を明確に表示する必要があります。特にFX取引では、レバレッジによる損失拡大のリスクなどを適切に説明しなければなりません。
⑤顧客の属性に応じた勧誘
顧客の知識、経験、財産状況、投資目的に照らして不適当な勧誘を行うことは禁止されています(適合性の原則)。
広告やセミナーなどにおける表現にも、これらの規制が適用されるため、投資助言業者やFX業者は広告表現に細心の注意を払う必要があります。
資金決済法・JVCEAガイドライン(暗号資産の広告規制)
暗号資産(仮想通貨)に関しては、資金決済法と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)のガイドラインが広告表現を規制しています。
資金決済法の規制
改正資金決済法では、暗号資産交換業者が広告を行う際に、以下の事項を明示することが義務付けられています。
- 暗号資産交換業者の商号
- 暗号資産交換業者である旨
- 取り扱う暗号資産の名称
- 暗号資産の性質のうち利用者の判断に影響を及ぼす重要事項
また、以下の行為も禁止されています。
- 虚偽の表示をし、または暗号資産の性質について人を誤認させるような表示をする行為
- 投機目的での取引を助長するような表示をする行為
JVCEAのガイドライン
JVCEAは自主規制団体として、会員である暗号資産交換業者に対して広告に関するガイドラインを設けています。主なポイントは以下の通りです。
- 暗号資産の価格変動リスクを明示すること
- 暗号資産の価格の将来の動向について断定的判断を示さないこと
- 利用者が暗号資産の仕組みやリスクを理解できるよう適切な説明をすること
- 過去の価格推移のみを強調し、将来の値上がりを示唆するような表現を避けること
これらの規制は、暗号資産の特性と関連リスクについて消費者に適切な理解を促すことを目的としています。
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。
引用:資金決済に関する法律 | e-Gov 法令検索
一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
景品表示法・特商法・その他の関連法
投資関連広告には、金商法や資金決済法以外にも遵守すべき法律があります。
景品表示法
不当な表示を規制する法律であり、以下の表示が禁止されています。
優良誤認表示
商品・サービスの品質、効果などについて、実際のものより著しく優良であると誤認させる表示。
有利誤認表示
取引条件について、実際のものより著しく有利であると誤認させる表示。投資商品の広告では、「確実に利益が出る」「リスクなしで高利回り」といった表現が景品表示法違反となる可能性があります。
特定商取引法(特商法)
特商法は、通信販売などの特定の取引形態について規制する法律です。投資商品のオンライン販売やセミナー後の契約などが対象となる場合があります。広告には以下の事項を表示する必要があります。
- 販売業者の氏名(名称)
- 住所、電話番号
- 価格、送料
- 支払い方法、時期
- 返品・キャンセル条件 など
その他の関連法
- 個人情報保護法:顧客情報の取り扱いに関する規制
- 消費者契約法:消費者と事業者間の契約トラブルを防止するための法律
- 不正競争防止法:営業上の信用を害する虚偽の事実の告知などを禁止
これらの法律も投資関連広告に関わる可能性があるため、広告担当者は幅広い法的知識を持つ必要があります。
媒体側の広告ポリシー(Google、Meta、X等)
主要な広告プラットフォームは、法律に加えて独自の広告ポリシーを設けています。
Google広告のポリシー
Google広告では、金融サービスに関して厳格なポリシーを定めています。
- 金融商品やサービスを提供するビジネスの住所を明示する必要があります
- 第三者による認定情報や推薦情報へのリンクを提供する必要があります
- 一部の金融商品広告(CFD、先物取引、FXなど)は、各国の規制当局からの認可が必要で、事前申請が必要です
- 虚偽の情報、誤解を招く表現、過度な利益の強調は禁止されています
- リスク開示が適切に行われていない広告は掲載が拒否されます
Meta(Facebook・Instagram)の広告ポリシー
Metaプラットフォームでも金融サービス広告に制限があります。
- 各国の規制当局による認可が必要です
- 広告には適切な免責事項と対象年齢の制限が必要です
- 暗号資産関連の広告には特別な審査プロセスがあります
- 短期間で高収益を約束するような表現は禁止されています
X(旧Twitter)の広告ポリシー
Xでも金融商品およびサービスの広告は制限付きで許可されています。
- 広告主は各国の金融規制当局(日本の場合は金融庁など)の承認を取得している必要があります
- 暗号資産やNFT関連の広告には別途認定申請が必要です
- 国や地域によって適用される制限事項が異なります
これらのプラットフォームポリシーは定期的に更新されるため、最新の情報を常にチェックしておくことが重要です。違反があると広告アカウントの停止など厳しい措置が取られる可能性があります。
投資関連広告を出稿する際は、法律とプラットフォームのポリシーの両方を遵守することが必須です。不明点がある場合は、法務部門や専門家に相談することをお勧めします。
投資助言・仮想通貨・FXの分野別広告規制とNG/OK表現
各金融分野には、その特性に応じた独自の広告規制があります。ここでは、投資助言、暗号資産、FXの各分野における広告規制の詳細とNG/OK表現例を解説します。
適切な表現を理解することで、効果的かつコンプライアンスに準拠した広告を作成できます。
投資助言・代理業(投資顧問)における広告規制と注意点
投資助言・代理業(いわゆる投資顧問業)は、金融商品取引法に基づいて広告規制が設けられています。顧客の資産運用に関するアドバイスを提供するサービスであるため、特に誤解を招く表現に厳しい制限があります。
NG表現例
表現例 | 理由 |
---|---|
「必ず儲かる投資法」「確実に利益が出る」 | 投資に確実性はなく、断定的な表現は禁止されています。 |
「○○円投資すれば、△△円になります」 | 将来の運用成績を約束するような表現は使用できません。 |
「当社の投資助言により、利益率は常に市場平均を上回ります」 | 実績に基づかない優位性の主張は避けるべきです。 |
「損失は一切ありません」「リスクなしの投資法」 | 投資にはリスクが伴うため、リスクがないという表現は誤解を招きます。 |
過去の一部の成功事例のみを強調する表現 | 全体の成績を示さず、好成績の一部だけを抽出するのは不適切です。 |
OK表現例
表現例 | 理由 |
---|---|
「当社の投資助言サービスの過去3年間の平均リターンは○○%でした(期間:20XX年~20XX年)」 | 具体的な期間と実績を明示しています。 |
「投資判断はお客様ご自身で行っていただきます」 | 責任の所在を明確にしています。 |
「投資にはリスクが伴い、元本の保証はありません」 | リスク情報を適切に開示しています。 |
「当社は金融商品取引業者として金融庁の登録を受けています(登録番号:○○○)」 | 法的な資格を明示しています。 |
注意点
- 過去の運用実績を表示する場合は、測定期間や計算方法を明記すること
- 運用実績は一定期間の平均値を示し、特定期間のみの抜粋は避けること
- 投資判断の最終責任は顧客にあることを明示すること
- 金融庁への登録番号を必ず表示すること
- 手数料やコストについて明確に表示すること
暗号資産(仮想通貨)における広告規制と注意点
暗号資産(仮想通貨)の広告は、資金決済法と日本暗号資産取引業協会(JVCEA)のガイドラインによって規制されています。価格変動が大きい商品であるため、リスク情報の開示が特に重視されています。
NG表現例
表現例 | 理由 |
---|---|
「○○コインは必ず値上がりします」 「今後確実に価格上昇」 | 価格変動の断定的な予測は禁止されています。 |
「リスクなしで高リターン」 「損失の心配はありません」 | 暗号資産には高いリスクが伴うため、リスクを否定する表現は不適切です。 |
「今買わないと一生後悔します」 「この機会を逃すと二度とチャンスはありません」 | 心理的圧力をかける表現は避けるべきです。 |
「誰でも簡単に億り人になれる」 「寝ているだけで資産が増える」 | 非現実的な利益を想起させる表現は不適切です。 |
「○○国の中央銀行が公認」「政府が保証」 | 事実に反する信頼性の主張は禁止されています。 |
OK表現例
表現例 | 理由 |
---|---|
「暗号資産は価格が大きく変動する場合があります」 | リスク情報を適切に開示しています。 |
「当社は暗号資産交換業者として金融庁に登録されています(登録番号:○○○)」 | 法的な資格を明示しています。 |
「過去1年間の○○コインの価格推移は以下の通りです(図表)」 | 客観的な情報を提供しています。 |
「暗号資産は代価の弁済を受ける者の同意がある場合に限り、代価の弁済のために使用できます」 | 法律で定められた情報を開示しています。 |
注意点
- 広告には暗号資産交換業者であることを明記すること
- 取り扱う暗号資産の名称を明示すること
- 価格変動リスクを必ず記載すること
- 投機目的での取引を助長するような表現を避けること
- マネーロンダリングやテロ資金供与対策について適切な説明を行うこと
- 暗号資産の仕組みやブロックチェーン技術について正確な情報を提供すること
FXにおける広告規制と注意点
FX(外国為替証拠金取引)の広告は、金融商品取引法に基づく規制が適用されます。レバレッジを利用した取引であることから、損失リスクの説明が特に重要視されています。
NG表現例
表現例 | 理由 |
---|---|
「FXで確実に儲かる手法」「負けない売買法」 | 断定的な表現は禁止されています。 |
「元手10万円で1,000万円稼いだ」「月利30%を達成」 | 特殊な事例を一般化するような表現は誤解を招きます。 |
「リスクなしで外貨投資」「損失が出ない仕組み」 | FXには常にリスクが伴うため、誤解を招く表現です。 |
「為替相場は今後○○円まで上昇します」 | 相場の動向を断定的に予測する表現は不適切です。 |
レバレッジの効果のみを強調し、リスクに触れない表現 | 片面的な情報提供は不適切です。 |
OK表現例
表現例 | 理由 |
---|---|
「FXは少額の証拠金で大きな取引が可能ですが、それだけ大きな損失を被るリスクもあります」 | レバレッジのメリットとリスクを適切に説明しています。 |
「当社は金融商品取引業者として金融庁の登録を受けています(登録番号:○○○)」 | 法的な資格を明示しています。 |
「FX取引では、為替相場の変動により損失が生じる可能性があります」 | リスク情報を適切に開示しています。 |
「取引にあたっては契約締結前交付書面をよくお読みください」 | 法定書面の重要性を説明しています。 |
注意点
- レバレッジの仕組みとそのリスクを明確に説明すること
- 取引手数料やスプレッドなどのコスト情報を明示すること
- ロスカットルールについて説明すること
- 証拠金維持率や追証(追加証拠金)の可能性について説明すること
- 過去の運用実績を表示する場合は、測定期間や計算方法を明記すること
- 金融庁への登録番号を必ず表示すること
各分野の広告作成においては、規制内容を十分に理解し、法的要件を満たすだけでなく、顧客が十分な情報に基づいて判断できるよう配慮することが重要です。疑問がある場合は、法務部門や規制当局への相談を検討しましょう。
広告媒体ごとの規制と審査ルール
各広告プラットフォームには独自の規制と審査ルールが存在します。投資関連広告を効果的に展開するためには、各媒体の特性と規制を理解することが不可欠です。ここでは、主要なデジタル広告プラットフォームごとの金融商品広告に関するポリシーと注意点を解説します。
Google広告の金融商品ポリシーと制限
Google広告では、金融商品・サービスの広告に対して特に厳格な審査基準を設けています。投資助言、FX、暗号資産などの広告は「制限付きコンテンツ」に分類され、追加の認証や制限が適用されます。
基本要件
Google広告での金融商品広告には、金融サービス提供事業者の正確な住所の明示、適切な認可・登録情報の表示(金融庁登録番号など)、ターゲティングする地域の法令・規制の遵守、そして適切なリスク開示と免責事項の表示が求められます。
制限と認証プロセス
FX・CFD・バイナリーオプション |
---|
事前申請が必要(Google広告の制限付き金融商品申請フォームを使用) |
金融庁など規制当局の認可証明が必要 |
レバレッジに関する現地法規制の遵守が必要 |
日本の場合、個人向けレバレッジ上限(25倍)の遵守が求められる |
暗号資産関連広告 |
---|
暗号資産交換業者としての金融庁登録が必要 |
事前申請と審査が必要 |
ICO・トークンセールなどの一部サービスは制限対象 |
投資助言サービス |
---|
金融商品取引業者(投資助言・代理業)としての登録証明が必要 |
リスク開示が必要 |
不確実な利益の約束は禁止 |
審査のポイント
審査では、ランディングページを含め関連するすべてのページが規制に準拠しているか、適切な免責事項やリスク開示があるか、断定的表現や誤解を招く表現がないか、必要な認可・登録情報が明示されているかがチェックされます。
特に「確実に利益が出る」「リスクなし」「簡単に稼げる」など、非現実的な利益を示唆する表現は拒否される可能性が高いです。
Google広告の審査は、自動審査と人による審査の両方が行われ、規制違反時は広告配信停止やアカウント停止などのペナルティが課される可能性があります。
Meta広告(Facebook・Instagram)の審査ポイント
Meta(Facebook・Instagram)も金融商品広告に厳しい規制を設けています。特に投資関連広告では、追加の審査と制限があります。
基本要件
Meta広告では、広告主の適切な身元確認と認証、各国の金融規制当局の認可取得(日本の場合は金融庁など)、適切な免責事項とリスク開示、そして18歳以上をターゲットとするなどの年齢制限の設定が基本要件となります。
金融商品カテゴリー別の審査ポイント
投資関連広告 |
---|
金融商品取引業者としての登録証明 |
リスク開示の表示 |
過度な利益の約束やギャランティの禁止 |
ランディングページの内容もポリシーに準拠していること |
暗号資産関連広告 |
---|
事前承認申請が必要 |
暗号資産交換業者としての登録証明 |
価格変動リスクの明示 |
投機目的の助長禁止 |
FX・デリバティブ広告 |
---|
金融商品取引業者としての登録証明 |
レバレッジリスクの明示 |
損失可能性の説明 |
断定的表現の禁止 |
審査の特徴と通過のポイント
Metaの審査はAIと人間による複合的な審査プロセスで、ランディングページの詳細なチェック、広告のビジュアルやテキストの審査、ユーザー体験の質の評価が行われます。
審査を通過するためには、透明性の高い広告内容、適切な表現の使用、明確なリスク開示、適切なターゲティング設定、一貫性のあるランディングページが重要です。
Meta広告は審査が厳格で、特に初回の金融商品広告は時間がかかる場合があります。承認後も定期的な再審査が行われる可能性があります。
X(旧Twitter)やYouTubeなどその他媒体の対応
主要なソーシャルメディアプラットフォームには、それぞれ独自の金融広告ポリシーがあります。
X(旧Twitter)の広告ポリシー
X(旧Twitter)では金融サービス広告は制限付きで許可されており、各国の金融規制当局の認可取得が必要です。
暗号資産広告には別途認定申請が必要で、金融機関、金融商品・サービス、金融データなどのカテゴリーごとに異なる規制があります。投資リスクの明示と適切な免責事項の表示が必要です。
YouTube広告の注意点
YouTube広告はGoogle広告と同様のポリシーが適用され、金融商品・サービスの広告には事前審査が必要です。
動画コンテンツ自体もポリシーに準拠する必要があり、特に「一攫千金」的な表現に厳しい審査が行われます。動画の冒頭でリスク開示を行うことが推奨され、インストリーム広告(動画前や途中の広告)は審査が特に厳格です。
その他のプラットフォーム
Yahoo!広告(日本)では金融商品取引業者の登録番号の表示、景品表示法など関連法規の遵守、監督官庁の認可証明、リスク情報の適切な開示が求められます。
TikTok広告では金融商品・サービスの広告は厳しく制限されており、一部の国では金融商品広告が禁止されています。暗号資産関連の広告は多くの国で禁止または厳しく制限されており、若年層向けプラットフォームであるため特に慎重な審査が行われます。
各プラットフォームは定期的にポリシーを更新するため、最新の規制内容を常に確認することが重要です。
アフィリエイト広告・インフルエンサー活用時の注意点
アフィリエイト広告やインフルエンサーマーケティングを活用する場合、直接広告と異なる追加の注意点があります。
アフィリエイト広告の注意点は以下になります。
広告主の責任
アフィリエイターの表現も広告主の責任となることを認識し、アフィリエイターに対するガイドラインの提供と教育を行い、定期的なコンテンツモニタリングを実施すべきです。
必要な開示
アフィリエイト広告であることの明示(「広告」「PR」などの表記)が必要であり、報酬を得ていることを開示しなければなりません。また金融商品の場合はリスク開示も必須となります。
コンプライアンス対策
アフィリエイターとの契約に禁止表現や必須開示事項を明記し、定期的な表現チェックと修正指示を行うことが大切です。さらに、不適切な表現を行うアフィリエイターとの契約解除条項を設定しておくことも重要です。
違反リスク
無登録業者の広告を行うアフィリエイターも法的責任を問われる可能性があり、特に海外FX業者の紹介は金融商品取引法違反となるリスクがあります。誇大広告や虚偽表示については、広告主とアフィリエイターの両方が罰則対象となる可能性があります。
インフルエンサー活用時の注意点としては以下の点が重要です。
適切なインフルエンサー選定
金融リテラシーが高く適切な表現ができるインフルエンサーを選び、過去の投稿内容や発言を確認してリスク管理を行い、フォロワー数よりも信頼性や適合性を重視すべきです。
明確なガイドライン提供
使用可能な表現と禁止表現のリストを提供し、リスク開示方法の具体的な指示を行い、投資経験を伝える際の適切な表現方法を指導することが必要です。
広告表示の明確化
「PR」「広告」「提供」などの表記を明確に行い、報酬を受け取っていることを透明に開示し、視聴者に誤解を与えない表現を心がけることが大切です。
コンテンツ事前確認
投稿前の内容チェックと修正指示を行い、ライブ配信の場合は事前のブリーフィングと注意事項の確認をし、問題発生時の迅速な対応体制を構築しておくことが重要です。
アフィリエイト広告やインフルエンサーマーケティングでは、第三者が広告主の商品・サービスについて発信するため、直接コントロールが難しい面があります。
そのため、事前の教育と明確なガイドライン提供、継続的なモニタリングが特に重要となります。
行政処分・指導の事例から学ぶリスク
投資関連広告のコンプライアンス違反は、厳しい行政処分や指導の対象となります。過去の処分事例を学ぶことで、広告表現のリスクを理解し、同様の過ちを避けることができます。ここでは、典型的な処分パターンと一般的な事例から、実践的な改善ポイントを解説します。
断定的判断・実績誤認などの典型処分パターン
金融商品の広告に関する行政処分は、いくつかの典型的なパターンがあります。特に以下の違反は処分の対象となりやすい項目です。
断定的判断の提供
金融商品取引法では、不確実な事項について断定的判断を提供することが禁止されています。処分事例では、以下のような表現が問題となっています。
- 「○○円まで上昇確実」「今後必ず値上がりする」など、相場の動向を断定する表現
- 「利益確定」「必ず利益が出る」など、投資結果を断定する表現
- 「最低でも年利○○%」「毎月安定して収益が出る」など、リターンを断定する表現
これらの表現は、投資の本質的なリスクを無視し、顧客に誤った期待を抱かせるものとして、処分の対象となります。
優良誤認(実績の誤認)
過去の投資実績について、事実と異なる表示や誤解を招く表示も処分の対象です。
- 一部の好成績のみを抽出し、全体の実績を示さない表示
- 特定の短期間の実績のみを強調し、長期的な実績を隠す表示
- シミュレーション結果を実際の運用実績のように表示
- 特定の条件下でのみ成立する実績を一般化して表示
これらは景品表示法の優良誤認にも該当する可能性があり、金融庁だけでなく消費者庁からも処分を受ける可能性があります。
虚偽告知・重要事項の不告知
金融商品の重要な特性やリスクについて、虚偽の説明をしたり、説明を怠ったりする行為も処分対象です。
- リスク情報を小さな文字で表示したり、分かりにくい場所に配置する
- 「元本保証」でないにもかかわらず、そのような印象を与える表現を使用
- 手数料やコストについて明確に表示しない
- レバレッジ取引のリスクを適切に説明しない
金融サービスの透明性は、顧客保護の観点から最も重視される項目の一つです。
無登録営業の助長
無登録の金融商品取引業者や暗号資産交換業者の宣伝を行うことも、法令違反となる可能性があります。
- 海外FX業者(日本の金融庁に登録のない業者)の宣伝
- 無登録の投資助言業者のセミナーや商材の宣伝
- 無登録の暗号資産交換業者のサービス紹介
これらは広告主だけでなく、アフィリエイターやメディア運営者も法的責任を問われる可能性があります。
処分事例の紹介と改善ポイント
実際によくある処分事例のタイプを見ることで、具体的なリスクと改善ポイントを理解しましょう。
事例1:暗号資産交換業者への行政指導
暗号資産交換業者がSNS広告で「今後価格上昇が見込める銘柄」「大きな値上がりも狙える」といった表現を使用し、価格変動リスクの説明が不十分なケースがあります。また、「少額から始められる」「手数料無料」と強調しながら、出金手数料などの実質的なコストについて小さな文字で表示するようなケースも見られます。このような広告表現は行政指導の対象となることがあります。
改善ポイント
- 価格予測に関する断定的表現を避け、「過去の相場を見ると〜」など客観的な表現に修正
- 暗号資産の価格変動リスクを目立つ場所に明記
- 「手数料無料」などの表現を使用する場合は、すべてのコスト(出金手数料、スプレッドなど)を同等の文字サイズで明記
- 「少額から始められる」という表現と併せて、少額投資の場合でも大きな損失が発生する可能性を説明
事例2:FX業者への処分
FX業者が広告で「初心者でも簡単に稼げる」「高額の副収入」といった表現を使用し、レバレッジによる損失リスクの説明が不十分なケースがあります。また、特定の成功者の事例のみを強調し、一般的な顧客の損益状況を開示していないこともあります。このような広告表現は業務改善命令などの対象となります。
改善ポイント
- 「簡単」「誰でも」といった表現を避け、FXに必要な知識や経験を適切に説明
- レバレッジによる損失リスクを分かりやすく説明
- 成功事例を紹介する場合は「特定の条件下での事例であり、すべての方に同様の結果を保証するものではありません」などの注釈を加える
- 顧客全体の損益状況(例:「当社の個人顧客のうち、利益を上げている割合は約XX%です」)を表示
これらの処分事例から学ぶべき5つのポイントは以下の通りです。
- 断定的表現を避ける:投資の結果や市場の動向について断定的な表現を使わず、可能性や確率を示す表現を使用する
- リスク情報を適切に開示:リスク情報は、メリットと同等以上の文字サイズや目立つ位置に配置する
- 実績表示は公正に:実績を表示する場合は、特定の成功例だけでなく、平均的な結果や損失例も含めて公正に表示する
- コスト情報を明確に:手数料やその他のコストについて、明確かつ分かりやすく表示する
- 登録・認可情報を確認:紹介する業者が適切な登録・認可を受けているか必ず確認する
行政処分は、金融商品取引業者としての信頼を大きく損なうだけでなく、業務停止による収益機会の喪失、社会的信用の低下など、事業に深刻な影響を及ぼします。
コンプライアンス違反のリスクを十分に認識し、法令や自主規制ルールに準拠した広告表現を心がけることが重要です。
仮想通貨の広告規制によくある質問
仮想通貨(暗号資産)の広告を作成する際に、多くの担当者が疑問に感じる点について解説します。
「確実に儲かる」「必ず利益が出る」などは、どこまでNG?
投資商品の広告において、将来の利益を断定的に表現することは法令違反になる可能性があります。具体的なNGは以下の通りです。
完全NGとなる表現
以下のような断定的表現は、金融商品取引法や資金決済法に抵触する可能性が高く、NGとなります。
- 「必ず儲かる」「確実に利益が出る」
- 「絶対に損しない」「リスクなしで高リターン」
- 「○○コインは○○円まで上昇確実」
- 「誰でも簡単に儲かる」「寝ているだけで資産が増える」
これらの表現は、投資の本質的なリスクを無視し、消費者に誤った期待を抱かせるものとして、規制当局から厳しく指導される可能性があります。
過去実績を表示するときの注意点とは?
過去実績を表示する際は、特に好成績だった短期間のみを抽出して表示することは不適切です。上昇期と下落期の両方を含む十分な期間のデータを示し、複数の期間のデータを併記することが望ましいです。
グラフ表示では、スケールの操作によって変動が過大または過小に見えるような表示は避け、誤解を招かないグラフ設計を心がけましょう。
「過去の実績は将来の成果を保証するものではありません」という免責事項、利益率やリターン計算の方法、データの出所、シミュレーション結果の場合はその旨と前提条件を必ず記載すべきです。
【まとめ】投資系広告を安全かつ効果的に出稿するために
本記事では、投資助言・仮想通貨・FX広告の法的規制と表現ルールを解説しました。投資系広告は消費者の資産形成に影響するため、適切な情報開示が必要です。
規制の背景には金融商品の「目に見えない商品」という特性と投資リスクがあります。各金融商品に適用される法律は異なりますが、「断定的判断の禁止」「誤解を招く表現の禁止」「リスク情報の開示」といった共通原則があります。
投資系広告を安全かつ効果的に出稿するための重要ポイントは以下の通りです。
- 適用される法律とガイドラインを正確に理解する
- リスク情報と利益情報のバランスを適切に保つ
- 断定的表現や誇大広告を厳に慎む
- 各広告媒体の審査基準を理解し、準拠する
- アフィリエイターやインフルエンサーへの適切なガイドライン提供と監視を行う
- 過去の処分事例から学び、社内の広告審査体制を確立する
一見すると、これらの規制はマーケティング活動の制約になるように思えるかもしれません。しかし、適切なコンプライアンス体制は法的リスクを回避するだけでなく、投資家の権利を尊重する企業姿勢を示すことにもつながります。
投資系広告の作成と出稿に携わる方々には、この記事で解説した内容を参考に、コンプライアンスと効果のバランスがとれた広告運用を実践していただければ幸いです。